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古川末喜『杜甫の詩と生活―現代訓読文で読む』

杜甫の詩と生活 現代訓読文で読む

古川末喜杜甫の詩と生活―現代訓読文で読む』 (佐賀大学文化教育学部研究叢書)  (知泉書館、2015年1月)

 

 著者はこの本で3つの挑戦をしています。第1は口語体による漢詩の訓読、第2は生活詩人杜甫の登場、第3は注無しで読める漢詩の鑑賞、です。

 副題に「現代訓読文で読む」と書いてありますが、これが著者の一つ目の挑戦にあたります。訓読というと、日本古典文で読むことを指すのですが、著者は訓読の原理を見直して、現代日本語で訓読しようと試みています。本来の訓読が持っていたキビキビした日本語のリズムを活かしながら、耳で聞いて意味が理解できるような訓読になっています。

 主題が「杜甫の詩と生活」となっているように、杜甫のたくさんの詩から、生活者としての杜甫がよくわかる詩が選んであります。家族や身近な人を大切に思い、質素な中にも楽しみを見出し、今に生きる私たちも共感できる喜怒哀楽をうたった詩です。しかも、その詩を「注無しで読める」ように工夫されています。古典の詩歌はなかなか意味がわからないのでたくさん注釈をつけて説明をする場合が多いのですが、めんどうで嫌になってしまう人も少なくないことでしょう。それを思い切って「注無しで読める」ようにしてあるのです。いったいどんな工夫?そう思った方はぜひ書店で手に取ってごらんください。

下定雅弘『精選 漢詩集: 生きる喜びの歌』

下定雅弘『精選 漢詩集: 生きる喜びの歌』 (ちくま新書)  (筑摩書房、2014年5月) 

 

帯付をお求めになるのをお勧めします。帯には、橋本関雪「武陵桃源図」という絵の上に「東洋の精神史を通覧する野心的なアンソロジー」と書いてあります。

この本によってなぜ「東洋の精神史を通覧する」ことが可能なのでしょう。疑問を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。本書で謎解きをしていただきたいと思います。

漢詩というと、友との別れとか、故郷を離れている悲しさとかネガティブな感情を歌ったものが

多いと思っていらっしゃる方はいませんか。実はそうではありません。この本をご覧くだされば、ポジティブな感情を漢詩がうたえる文芸形式であることが分かっていただけると思います。

著者は「あとがき」で次のように述べています。

「人生は辛く悲しいことで満ちている。だが、喜びと楽しみもまた無限に豊かにある。本書を読んでくださった皆さんは、きっと詩人たちの喜びを自分の喜びとして味わい、もっと多くの喜びを発見し、日々を楽しく生きようと思ってくださったことと思う」。

末尾には、韻字索引がついていますので、漢詩を作りたい人にも便利な本となっています。